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還暦旅行記・第2章 ~潮が引く聖域と、祈りの灯火~

炎天下の休息、癒しの「みやじマリン」

あれほど心躍らせた宮島の食べ歩きも、満たされたお腹と歩き疲れた足、そして容赦ない暑さの前には終わりを告げざるを得ませんでした。喉ばかりが渇き、体は正直に休息を求めています。

「少し離れたところに水族館があるみたいよ」。プランナーである妻の提案は、まさに砂漠でオアシスを見つけたかのようでした。「涼めそうだし、行ってみようか」。その一言で、私たちの重かった足は再び前へと進み始めます。

嚴島神社のにぎわいが嘘のように、宮島水族館(みやじマリン)の敷地内は落ち着いていました。インバウンドの観光客の方も数えるほどで、ゆったりとした時間が流れています。
「こじんまりしてるけど、何が見れるのかな?」
そんな私たちの心配をよそに、愛嬌たっぷりのアザラシ、よちよちと歩くペンギンのお食事タイム、賢いアシカのショーと、見どころは尽きません。そして、なぜここに?と思わせる実物大のカキの養殖筏の展示など、思った以上に楽しむことができました。「小さい水族館なりに、すごく頑張っているんだな」。入館料だけでこの施設を維持するのは大変だろうな、などと考えつつも、これもまた宮島という島全体を支える大切な魅力の一つなのだろうと感じました。

潮が引いた聖域、大鳥居の真下へ

水族館を出て、再び大鳥居の方へ歩みを進めると、目の前には全く違う光景が広がっていました。あれほど深く水を湛えていた海は遠くへ引き、厳かな鳥居はその土台を露わにして、大地に力強く立っています。

「ねぇ、この鳥居、海底に埋められてるんじゃなくて、ただ置いてあるだけなんだって」。妻が教えてくれました。本当だろうか?と一瞬疑うほどの巨大な鳥居が、自らの重みだけで、あの場所に立ち続けている。その事実に、ただただ圧倒されます。
潮が引いた砂地には、吸い寄せられるように多くの人々が集い、その神々しい姿を見上げていました。夕暮れの光を受けながらも、それに負けないほどの鮮やかな朱色を放つ鳥居。疲れた足が「もう限界だ」と悲鳴をあげていましたが、ここまで来たら、あの鳥居の真下まで行かないわけにはいきません。私たちは最後の力を振り絞り、聖なる領域へと一歩一歩、足を進めたのでした。

広島の魂、痺れる辛さ「汁なし担々麺」

名残惜しさを胸に宮島を離れ、広島の街へと戻ります。
晩御飯は、駅ビル「ekie」でプランナーが事前に見繕っていた「くにまつ+武蔵坊」という店。二つの人気汁なし担々麺店がコラボしたお店らしく、それぞれの味を一度に楽しめる「食べ比べセット」なるものがありました。もちろん、私たちは迷わずそれを注文。
すると、また妻から「担々麺の発祥は中国の四川だけど、『汁なし担々麺』を一大ご当地グルメにまでしたのは、ここ広島なんだよ」との豆知識が。へぇー!と感心しながら、山椒の痺れる辛さと濃厚な旨味を堪能しました。妻の情報はガセネタどころか、いつも的確です。💛

予定外の訪問、夜の平和記念公園

さて、宿に戻るか、という流れでしたが、「せっかくだから、行ってみないか」。
当初の予定には全くなかった、夜の原爆ドームと平和記念公園へ。その提案に、皆が頷きました。資料館で記録の展示をまともに見てしまったら、きっと気持ちが沈んでしまうだろう。でも、そうそう来ることができる場所ではない広島に来て、この国の記憶に深く刻まれたこの場所を素通りしてしまっては、きっと後々まで後悔する。

だから、夜に訪れるというのは、まさに「ちょうどよい塩梅」だったのかもしれません。

私たちは路面電車に乗り込みました。(またしても、私一人だけ現金払い。去年からOliveを使い始めてタッチ決済に慣れ、現金主義から脱却中だったのですが…この話はまた今度にしておきましょう。)

記憶に刻む光と影、そして最高の宿へ

夜の闇の中に静かに佇む、原爆ドーム。
それを見たとき、どんな言葉を紡げばいいのか、分かりませんでした。80年という時を経て、今なお戦争の爪痕を生々しく伝えるその姿。すると、静寂を破って一匹の猫がドームの瓦礫の中へとすっと消えていきました。あまりにシュールな光景に、あれは誰かの化身だったのだろうか、などと非現実的なことを考えてしまいました。

公園へと歩を進めると、決して絶えることのない「平和の灯」が燃えています。テレビで何度も見た光景です。日本の歴代首相はもちろん、G7サミットの際には各国の首脳たちが、この炎の前で深く頭を垂れました。世界中の祈りが、この小さな灯火に集まっているかのようです。その炎の向こう側には、寸分違わず原爆ドームが見えるように設計されていることに気づき、この場所に込められた強い祈りに改めて感服しました。

ガラス張りのケースの中には、全国から、世界から届けられたであろう無数の千羽鶴が、ぎっしりと納められています。昼間に見るのとはまた違う、静かで、それでいてあまりにも雄弁なその光景に、私たちはただ立ち尽くすばかりでした。

心も体も、心地よい疲労感で満たされながら、ようやく宿へ。
駅に隣接する「ホテルグランヴィア広島 サウスゲート」。今年の3月に開業したばかりとあって、格調高く、清潔で、バスとトイレが別々なのも嬉しいところ。いやはや、良きかな。長い一日の終わりに、最高の休息が待っていました。

明日は、楽しみにしていたホテルの朝食から始まります。

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